「俺なんて転んでそこら辺で死んでも
もうどうでもいいんだって！」
「ほっといてくれ」
「ほっとけないよ」
ドラマ見てるみたいだった
病院の受付で夜勤をしている
コロナで自粛が深まって
バイト先の病院は空いている
そんな中、
酔っ払って頭怪我したおじいちゃんが何人もやってくる。
いやもうおじいちゃんと呼ぶのもおこがましい
爺ばかり運ばれてくる
その爺は朝から飲んで酔っ払ったあげく
転倒して怪我したところ救急車で運ばれた
診察室でも言うことを聞かず
さらには間に合わなくて診察室でおしっこを漏らすという
もうなんていうか、
…なんなん？
なんでこっちはバンド自粛した上に
最低賃金のバイトに来てコロナに震えてるってのに
お前ら酔っ払い爺なんなん？？
診察が終わり帰り際、
家がわからないという爺は
警察に連れて行かれることに。
しかし爺は警察がくる前にどうしても帰ろうとする。
警察の厄介になることが恥ずかしいんだとか。
本当の恥知らずとはこういうことか。
危ないよ、と止める看護師さんへ
冒頭のセリフ、
「俺なんて転んでそこら辺で死んでも
もうどうでもいいんだって！」
笑えなかった
怒りもなかった
ただ、
悲しくなった
あれ
これ、
こいつ、ひょっとして
俺の未来じゃね？
自分のことだけ考えて
人に迷惑さえかけなければ
自分の体だから
自分の人生だから
何したって
いつ死んだっていいだろって
いつも俺が思ってるようなこと
これ、
俺の未来の姿なんじゃね
そう思うととても悲しくなった
「ほっといてくれ」
好きに生きてきたんだって
もういつ終わったっていいんだって
価値もないんだって
そう言っているように聞こえた
「ほっといてくれ」
そのセリフを受けた看護師さんが言った
ほっとけないよ
あなたの無事を願ってるの
心配なの
病院にきたら元気になって帰って欲しいの
嘘かもしれない
でたらめかもしれない
警察が来るまでの時間稼ぎなのかもしれない
でもその言葉は確かに響いた
俺に響いてしまった
え
こんなに人のことをちゃんと想いながら
看護師さんて働いてるの
こんな自業自得で怪我して
あげくの果てにおしっこ漏らして
住所もわからない
お金もない
保険証も未加入な人間の
今後全く関わることのない人へ
嘘だとしても
こんなに親身になれるの
絶望と希望が入り混じるような未来を考える
こんな何にもないような爺にも
優しくしてくれる人がいるなら
俺がこのまま生きていても
もしかしたら希望ってあるのか
全俺が看護師さんに向けて
心の中でスタンディングオベーションをしていた
鳴り止まぬ拍手の中、
ずっと悪態をついていた爺が言った
「うるせえよ…」
「仕事辞めたくてよ…」
「辛えんだよ…」
と看護師さんに話し始めた
何もないなんて思ってごめん
爺にもいろいろあるんだよな
嘘だとか
仕事だとか
偽善だとか
金払えとか
いろいろあるけど
人と人とが優しくなれるなら
なんでもいいか
爺が警察に笑いながら引き取られて行くのを見ていた
警察も笑っていた
俺はいつしか全ての人へ
心の中でスタンディングオベーションをしていた
優しくなりたい
もう少しだけでも。
みんながいなくなり幕間のようなひと時が受付にくる
喧騒が去り訪れた静寂の中
自分の中でまだ何かが鳴っている
一緒に一部始終を見ていた職場の同僚に
「看護師さんってすごいっすね…」
と話すと
「悪い看護師さんたくさんいますよ」
と言われた
俺は 優しくなりたい。
PS
あまりに感動したので
看護師さんに勇気出して
「素晴らしかったです」
って言ったんですけど
スルーされました
全然大丈夫です
悪い看護婦さんって…、どんなのだろう…。
私は悪い看護師さんなのでスルーされたで笑ってしまいました。明日は今日よりちょっと真面目に働いてみようと思いますww
患者のこと考えない悪い看護師もいる中、いい看護師に出逢えて本当によかった。いいお話ありがとう