「3markets(株)を聴くという事。」


sakubun

彼等を初めて見たのは一昨年の高崎の小さなライブハウス。
見るからに影のある青年が、頼りなさそうにギターを構えて立っていた。サウンドチェックで鳴り響く音も、見た目同様どことなくヨレっとしていた。

ライブが始まって、僕は度肝を抜かれた。

聴こえてくるバンドサウンドはサウンドチェックの時と同じくガチャガチャしていて、歌声もそのままのヨレヨレさだ。
それなのに、何故かグッと来る。どうしてだろう?混乱する頭。

言葉だ。言葉が物凄い強さで心に届いてくる。

そのライブはまるで、交通事故に遭ったかの様な衝撃だった。

それから何度か、共演する機会に恵まれた。僕らのツアーに、参加してもらった事もあった。

見る度に加速する、彼等のライブ。本人たちは初めて出会ったあの日と変わらず、飄々としているんだけど。

今回新しいアルバムの為のコメントを頼まれた。
「何も聞こえない」と言うタイトルで、この秋にリリースになるアルバムだ。

いち早く、聞かせてもらった。

このアルバムを聞いていて、改めて思う。

3markets(株)の歌に、救いはない。癒しもない。

何故なら、彼等の歌そのものが、救いや癒しを強く求めているものだからだ。

だからこそ、心を強く揺さぶる。
心に訴えかけてくるって事じゃない。心の中そのものなんだ。
僕やあなたや君やあいつの、心そのもの。

人前で隠す本音、取り繕うのに疲れているのにどうしても手放せない建前。
情けなく汚れてしまった自分の、誰にも言えない嫌な部分をこれでもかってくらい、白日の下に晒してしまう。

ただ不思議なことに、晒されたその嫌な部分が何故だかどうして、愛おしく見えてくる。

曝け出し突き付けられた自分のどうしようもない部分を、風間くんの歌声や文悟くんの朗読が、強く優しく、抱きしめてくれるからだと思う。

オーバーグラウンド、アンダーグラウンド問わず大好きなバンドが沢山いるし、かく言う自分も一人のバンドマンとして、3markets(株)みたいなバンドの存在はとても稀有で、無くてはならないものなんだと思う。

演奏の巧い下手でも、動員の有る無しでもなく、僕たちバンドマンがステージに立つ上で一番大切な思いを、もっと言ってしまえば僕たちの日常の中にある小さな疑問符を、そしてそれを忘れてしまいそうな自分自身の愚かしさを、彼等の歌は思い出させてくれる。

3markets(株)を聴くと言う事は、生きることの衝動を、無くさずにいると言う事だ。




−海北大輔 (LOST IN TIME)