「何も聞こえない」


sakubun

「そんなの聞いてないよ!」

「だっていってないもん。」

「なんで言ってくれなかったの?」

「だって聞かれてないし。」

「はぁ?なんでゆうじっていつもそうなの?大事な事をいつも言わないでさ。」

「……だって、みかに言ったって分からないもん、きっと。」

「そんなの言ってみないと分からないじゃん!」

「分かるよ。」

「わからないよ!」

「じゃあ、俺が仕事辞めるって言ってたらお前どうしたんだよ?」

「え……。」

「ほら、言ったって、どうしようもないだろう。」

「でも、そんな大事な事…勝手に決められるなんてさ。一言ぐらい相談してくれたっていいじゃん…。」

「………俺は、何から何まで全部伝える必要はないと思ってる。時には嘘だって必要なんじゃないかって思うし。」

「……そんなの、なんか、寂しいじゃん。私なんの為にいるの?…辛い時とかに力になりたいよ。」

「なんっつーか、さ、…あんま、みかに心配かけたくなかったんだよ。」

「…………。」

「ほら、これ。」

「何、これ?」

「お前がこないだ聞きたいって言ってたCD。今度フェスに出るからその前に聞きたいって」

「…何も聞こえない?」

「3markets(株)ってバンド。変な名前だろ?何枚かあるけど、俺、これが一番好きなんだ。…こないださ、辞表出しに行く日、このアルバム聞いてて、なんかもっとちゃんと聞かなきゃって思ったんだ。」

「なにを?」

「んー、なんってか。自分の声っていうの?自分で自分が分からない時って何も聞こえないなーって漠然と思ったんだ。だからこの人たちみたいに、自分と向き合ってる人みたら俺もちゃんと聞かなきゃって思ったんだ。」

「うん、そうだね。」

「でもさ、自分に聞いてもわかんなかったら、たまには、人に聞くのもいいかもね。」

「そうだよ。自分の中の自分と、他人の中の自分は違うんだよ。ちゃんと話してくれないと、いつかは、ゆうじの声も私、何も聞こえなくなっちゃうよ。」

「そうだな、ごめん。」

「だから、ちゃんと話して。私もちゃんと聞くから。」

「うん、分かった。」

「嘘も必要かもしんないけど、たまには本音でぶつかってよ。」

「うん。」

「…………みか。」

「ん?」


「SEXしようか。」


「……最低。」



−3markets(株)角皆文悟